天と地の守り人
「 第一部 ロタ王国編 」
を読んで
著者の上橋菜穂子さんは、文庫本「天と地の守り人( 第一部 ロタ王国編 )」
[鼎談 1 ]
「天」の視点と「地」の視点の「全ては繋がっている」の中で、
ナユグとサグ二つの世界が関連して動いている。しかも、その関連が目には見えない。自分が感知していることの向こう側に、実にたくさんのことが動いている感覚があるの。
と書かれています。
チャグムの跡を追うバルサ、チャグムの空気をそこ、ここに感じながら、目には見えない糸をたどり、後ろ姿に迫っていく。
私の心には、
色々な人々の、国と国との駆け引きの渦の中を、
チャグム皇太子を知る人たちは、みんな、チャグム皇太子のことを心配しながらも、心の中で無事を祈り、そして、今、この時、自分にできる事をまっとうしようとしている姿が、心に残っています。
「シュガへ宛てたチャグムの書簡より」
そなたは、わたしが、この道を選んだことを嘆くだろうか。——— 子どものような心で、叶うはずのない夢を追ってしまったと、嘆くだろうか。
ではじまる
68ページ シュガがチャグムの事を思い
ジンが音もなく去ったあとも、シュガはひとりで夜明けの闇を見つめていた。
チャグム皇太子は、自分が知り得たタルシュ帝国の内情を書き留めて、シュガに残してくれた。簡略だが、必要な点をはずしていないその文章を読んだ時、シュガは心底驚いた。もともと賢い方だったが、その文章からただよってくる風格は、とても十六の若者のそれではなかったからだ。(中略)無事に帰ってきてほしい。あの、強く光る目を見、潑剌とした声を聞きたかった。
72ページ シュガの心の内
星読博士になることを夢みていた幼いころは、星読博士とは、この世のだれよりも清い人たちだと思っていた。神が天に描く壮大な理を読み解き、天ノ神の子である帝に仕え、世の人びとが幸福に日々を暮らせるように、導くのだと。
(聖なるものは・・・・遠くで崇めるものなのだろう)
近づけば近づくほど、その透明な輝きは薄れ、見たくないものが見えてくる。
水底のような、音のない青い闇を、シュガは、じっと見つめていた。
116ページ 赤目のユザンがバルサとチャグムに感じたこと
歩み去っていく女が、かすかに右足をひきずっているのに、ユザンは気づいた。
( 妙な女だぜ・・・・)
洗いざらいしゃべったのは、あの若造に関わるすべてをおっぽり出して、厄祓いしたい気分だったからだが、どこかに、あの女に話してやりたい気持ちもあったのかもしれない。
あの女は、凄まじく、張りつめていた。まったくの無表情だったが、あの若造の生死をたずねたときの目つきは、ただごとではなかった。
この港でおっぽりだしたとき、ふりかえった若造が浮かべた、さっぱりと明るい笑顔を思い出して、ユザンはため息をついた。
120ページ トロガイ師がタンダに言った言葉
——— そいつは、わしらが悩んでも、仕方のないことだ。
バルサもチャグムも、それぞれ自分で、自分の運命に決着をつけるしかないんだよ。
おまえや、わしには、ほかにやることがある。
それぞれが懸命に力を尽くした道の果てに、ふたたび出会えることを祈るしかない。
155ページ シュガの心の内
シュガは、目をふせた。
(・・・・これ以上、無駄に費やせる時は、残っていないな )
その思いが胸の中に落ちてきて、ひろがった。
人生とはふしぎなものだ。ふだんは、多くの努力を繰り返し、果てしなく思える長い時を耐えながら、一歩一歩坂をのぼるようにして未来を築かねばならぬのに、ときに、こうして、一瞬でおのれの未来を大きく変える選択を迫られる。
それでも、賭けに出るなら、今しかない。———もう、待っている余裕はないのだ。
217ページ〜218ページ バルサとヒュウゴとの会話
バルサは、つぶやいた。
「国がどうとかなんて話は、どうでもいい。———あの子が、幸せに生きられるなら、それでいいんだ」
( 中略 )
ヒュウゴが、つぶやいた。
「あなたは信じないだろうが、おれも、あの方には幸せになって欲しい。だけど、きっと、もう、あの方自身、そういう暮らしを夢みてはおられないんじゃないかな・・・・」
349ページ〜350ページ チャグムの思い
炉の火を見つめながら、チャグムは、顔をゆがめた。
「海に飛び込んだときは、たとえ死を装ったとしても、ロタ王が英断を下してくだされば、よみがえることができると———援軍を連れてもどることで、故国を救えると思っていた。
たとえ、父上がわたしの行為に激怒するとしても、心の中にある真直ぐなものを偽らずに、全身全霊をかけてぶつかっていけば、道は開けると思っていた・・・・」
チャグムは、ぎゅっとこぶしをにぎりしめた。
「だけど、それは・・・・甘い、子どもの夢だった」
にぎりしめたこぶしで目を覆い、チャグムは動かなくなった。
352ページ チャグムとバルサの会話
心を覆っていた暗い藪を、ばっさりと切り払われてしまったような気分だった。光が射してきて、風が入ってきたような心地だったけれど、すっ裸にされたような、薄ら寒い、おちつかなさもあった。
自分がなににとらわれてきたのか ——— どうすればいいのか、ぼんやりと考えるうちに、いままで見えていなかったものが、ゆっくりと、浮かびあがってきた。
チャグムは、バルサを見つめて、ぽつん、といった。
「・・・・その道に行っても、楽にはなれない」
バルサは、うながすように眉をあげた。
チャグムは、気恥ずかしそうに顔をしかめて、その言葉を押し出した。
「わたしが背負っているのは、重荷じゃなくて・・・・夢だから」
チャグムに目に涙が浮いた。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
私は、日本の少し前の時代では、日本人は昔からそこここに色々な「かみさま」がいて当たり前のように共に暮らしていた。そんな時代が恋しくて・・・・ 人が、一番ではなかった時代・・・・
だから、ナユグとサグの二つの世界の共存はごく自然な心のあり方のように思えて、ごくごく自然に心の中に入ってきます。
写真からのポエム 「感じられる」は、こちらから
著者の上橋菜穂子さんは、文庫本「天と地の守り人( 第一部 ロタ王国編 )」
[鼎談1]
「天」の視点と「地」の視点の「物語の始まり」の中で、
そうですね。子供の頃、自分が生きているこの世界そのものがとても怖かった。友達とか親とか、一人一人と顔を合わせていられる、そういう間柄は安心できるのだけれども、「世の中全体」となると、果てのない巨大な何かが蠢いている感覚があって怖かったの。泣いても喚いても許してくれないとてつもない途轍もない力が働いているような。それがいったい何であるかを知りたい気持ちが強かった。だから心理学よりは人類学や社会学の方に興味が行ったんだと思う。
そして、また、
そう、大きいの! 人が為すことにはすべて、自分では気づけないほど巨大な何かが影響している、とか、自分の意思とは別の何かに動かされてしまっている部分があるとか。それは人だけじゃなくて、風もそうだし星も虫もそうだし。人は決して、自らが生きている世界のすべてを捉えることはできなくて、私たちが認知することすらできぬ大きな何かが、私たちの世界を支えているのかもしれない、とかね。だから、一人の話を書きながら、向こう側の大きなものに関わる話になっていくのだと思う。
と書かれています。
そんな思いが、上橋菜穂子さんの心の中にあるから、物語りに奥行きを感じられるように思います。
この、「天と地の守り人( 第一部 ロタ王国編 )」の物語は、
日々の生活は、本当に色々な出来事が起こってきます。そんな中、自分に出来ることをまず考えて、今するべき事を一つひとつ、こなしていく事の大切さを教えてくれていると思います。
特に、トロガイ師がタンダに言った言葉が心に残っています。
——— そいつは、わしらが悩んでも、仕方のないことだ。
バルサもチャグムも、それぞれ自分で、自分の運命に決着をつけるしかないんだよ。
おまえや、わしには、ほかにやることがある。
それぞれが懸命に力を尽くした道の果てに、ふたたび出会えることを祈るしかない。
「天と地の守り人( 第一部 ロタ王国編 )」の物語で、
あなたは、人生を生きるための何を感じられましたか?
この続きの
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上橋菜穂子さんの本の心に残るページ 10
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