天と地の守り人
「第二部 カンバル王国編」を読んで
著者の上橋菜穂子さんは、文庫本「天と地の守り人(第二部 カンバル王国編)」[鼎談2] 「物語」の紡ぎ方の
萩原規子さん、佐藤多佳子さんとの鼎談の中で、
325ページ
佐藤多佳子さん まず伝えることが最優先なんだと思う。響きを気にするよりは、まず、自分の中にあるものをどれだけ正確に言葉に乗せられるかがほぼ全て。もちろん、リズムの悪い文章は読みづらいので、そこは大事にするけれど。私は、自分の書いたものを、「ああ、いい文章だ」とか特に思わないですね。
萩原規子さん わかる! 佐藤さんは自分の書いたものに耽溺しない。上橋さんも同じだけど、自分に対して冷静で客観的になっている感じがする。だから、佐藤さんの作品は一人称であっても、すーっと読めちゃう。書き込みたくなる自分と距離をとって、大事なことしか残さない書き方をしているのね。
上橋菜穂子さん そう。私も、消しゴムで書いている感覚があるかな。デッサンするときに、まず線をいっぱい描いてみて、この線というのが見えた瞬間に周りをきれいに消すように、私は文章を書き終えてから、すごく削る作業をします。
と、書かれています。
「チャグムの日誌より」
バルサは、まだ眠っている。バルサは、本当によく眠る。みじかいあいだでも深く眠り、起きるときには、まるで眠りを断ちきるように、さっと目ざめる。
ではじまる
今回、この「天と地の守り人(第二部 カンバル王国編)」の、「第一章 カンバルへ 1 護衛の知恵」 を読み始めたときに、どうしてこの物語にこの「護衛の知恵」がいるのだろううか?と、ふと思った。
前回読んだときには、浮かばなかった思いが浮かんできた。
その答えは、
291ページ バルサの言葉で明らかになった。
「みごとなホイ(捨て荷)だったね」
44ページ バルサが、わけありの家族のドホルに伝える言葉
「ホイはね、獲物を追うか、ここで引くか、迷っている盗賊の気持ちを、うまく後押ししてくれる大切な役割を果たすのです。
獲物には逃げられたが、やられっぱなしの無駄骨じゃなくて、多少は手に入ったとなれば、盗賊の頭の面目も立つ。———面目を保ったまま退却できる道を作ってやれば、引いてくれるものです」
バルサは、しずかにつけくわえた。
そして、
61ページ
「たしかに、あんたは、、私らに会ったことで、荷をふたつ損した。・・・・だけど、わたしらに会ったことで、自分と家族の命も助かったことは事実でしょう。このままカンバルへ行けるし、利益はなくとも、借金も返せる。そう思って、おさまりをつけてくれませんか」
ドホルは、しぶい顔をしていたが、やがて、うなずいた。
109ページ バルサとチャグムの会話
「皇太子として責任を感じてしまう気持ちはわかるよ。・・・でも、これは、あんたには、どうしようもなかったことだ。タルッシュ帝国が攻めてくる気になったのも、サンガルが寝返ったのも、自国の民を異国に取り残したまま、新ヨゴが鎖国をしたのも」
暗い目をして、チャグムはうつむいていた。
「それを、忘れちゃいけない。・・・あんたは自分を責めすぎる。ものすごく高いところを夢みて、そこへとどかないと、自分を責めている。
でもね、なにもかもを背負える人なんて、この世にはいないし、だれも傷つけず、だれにとっても幸福な解決なんてものも、きっと、この世には、ありはしないんだよ」
148ページ タンダの思い
われらの故郷を侵略してくる強欲な敵、ヨゴ人の武人たちがいうたびに、タンダの心には、皮肉な思いが浮かぶ。彼らヨゴ人とて、もともとは、南の大陸から、この地にやって来て、ヤクーの土地を奪っていったのではなかったか。
ヨゴ人は、たしかに、タルシュ人のように戦いを仕掛けてきたわけではなかった。だが、それは、彼らのやさしさゆえ、というより、ここに住んでいたヤクーたちが、自分たちの土地を守るためにために武器をとることもなく、山に逃げこんだからではなかろうか。
ヤクーたちは、恐ろしげな武人たちを見て、きっとおびえたのだろう。戦うより、逃げることを選んだ。そして、ヨゴ人たちが平地に田をつくり、街をつくり、山地の谷間に分け入って村をつくると、次第にヤクーは彼らの村におりてきて、旨い水の湧く場所を教えたりしながら、ゆっくりとヨゴ人と交わっていったのだ。
(その末が、おれだ)
150ページ タンダがトロガイ師匠を思い
コチャやアスラたちが感じている不安は、きっと、タルシュが攻めてくることとは、まったく関わりのないことだろう。大きな群れになりすぎた人という生き物には、感じられなくなってしまった些細な警告を、彼らは、自分でもよくわからずに発している。
彼らの声を警告だと受けとめ、なにが起こるのかを考えるのは、呪術師のつとめだ。
———呪術師でありたいと願うなら、いつも、耳をすましているんだよ、タンダ。
トロガイ師は、よくそういっていた。
———呪術師は、ほかの人には聞こえぬ、かすかな音を聞きとらねばならない。
村人たちなら、わらいとばすようなことでも、その裏になにがあるのか、めくってみる心を持たねばならない。
(師匠・・・)
206ページ チャグムのバルサへの思い
チャグムは、かすかに口をあけて眠っているバルサの顔を見つめた。
こんなふうに、無防備に眠っているバルサを、はじめて見たような気がした。ずっと、バルサのことを大きな人だと思ってきたのに、いまはもう自分のほうが、背が高いのだ。こんなに細い身体が、目ざめて動いている時は、なぜ、大きく見えるのだろう。
わが身を盾にしてチャグムをかばい、血を滴らせながら、左手を刺客の刀のほんうにむけていたバルサの姿が目に浮かんできた。
バルサは、平然と自分の身を刃の下に晒す。捨ててもいいもののように、自分の身体をあつかう・・・。
生と死との境目に、バルサはいつも、すっと、足を踏み出していく。
馬に名前なんかつけたら、別れるとき、つらくなるじゃないか、といったバルサの言葉が耳によみがってきた。
(・・・そんなふうに、あなたは、生きてきたのだな)
312ページ バルサとチャグムの会話
チャグムは、つぶやいた。
「人を殺した者にも、いつか、苦しさを忘れて・・・納得して・・・生きられる日が来るのかな。それとも、ずっと苦しいままなのかな」
バルサは穂先を磨く手を止めて、しばらだまっていたが、やがて、低い声でいった。
「人を殺した者は、楽になろうなんて思っちゃいけないと、わたしは思う。———理由をつけて納得なんかされたら、殺された人は浮かばれないだろう。
自分を殺そうとむかってくるやつを、身を守るために殺したんだとしても、わたしは、自分が人殺しだってことを、忘れたくない」
バルサは顔をあげて、チャグムを見た。
「正直に言おうか。———そう思っていないと、忘れてしまうんだよ、人を殺した苦しみを。身体が傷を治そうとするみたいに、心もさ、傷を閉じようと、いろんな言い訳を見つけだしてくる」
バルサの口もとに、薄い笑みが浮いた。
「そういう言い訳がうまく傷を塞いじまったら・・・わたしの心の中にかろうじて残っている、まっとうななにかも、消えていくような気がするんだ」
炉の火にやわらかく照らされているその顔から、ゆっくり笑みが消えた。
私の心に残った言葉です。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。
著者の上橋菜穂子さんは、文庫本「天と地の守り人(第二部 カンバル王国編)」[鼎談2] 「物語」の紡ぎ方の
萩原規子さん、佐藤多佳子さんとの鼎談の中の最後のところで、お二人の「守り人シリーズ」のなかで、好きな人物を伺っています。
佐藤多佳子さんは、「チャグム」です。
そして、
萩原規子さんは、「ジグロ」だそうです。
ちなみに、
私は、「アラユタン・ヒュウゴ」です。
人として生きていくために色々なことに、「折り合いをつけて生きていく」ことの大切さはわかるが、そんな中でも、忘れてはならない
「自分自身の生きていくための軸足をとなる事をどこに置くのか?」
私が、時々思うことは、「なんとなく、筋を通す」です。
あなたの心のうちには、どんな言葉が、心に浮かびましたか?
Nahoko・Uehashi
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