闇の守り人 を読んで
上橋菜穂子さんが、文庫版あとがき「闇を抜けた、そのさきへ」の中で
私の場合、ある場面から生まれてきます。
場面といっても、映画の一コマのような感じではなくて、耳をなぶる風の音や、
その風に乱される髪など、体感を伴ったイメージが、まず、心の中に浮かび上がってきて、そこから、はじまるのです。そういう風に物語が生まれてくるので、「こういうテーマを浮かび上がらせたい」というような理屈は、物語が立ち上がってくる過程で、主人公たちの葛藤とともに、ゆっくりと滲み出てくる感じです。
また、
物語は、私の中に突然イメージとして浮かび上がってきます。そのイメージが、「物語」として、私の心を揺さぶって、どうしようもなくなったとき、はじめて、書き始めることができるので、物語の性質は、物語自身が決めていく、という感じなのです。
と、書かれています。
私の心に残ったページを紹介していきます。
19ページ バルサの思いを
身体についた傷は、時が経てば癒える。だが、心の底についた傷は、忘れようとすればするほど、深くなっていくものだ。それを癒す方法はただひとつ。
———きちんと、その傷を見つめるしかない。
80ページ 母リナが、娘のジナに、思いを伝えた時、
母の言葉は、はじめ、宙に浮いて、漂っているようだった。だが、やがて、その言葉がふくむ苦い現実は、ゆっくりと降りてきて、みんなの胸の中に沈んでいった。
116ページ ユーカ叔母さんが、訪ねた時のバルサの心、
叔母に話したことで、なんだか心のおりが洗い流されてしまったような気がしていた。さっき感じた激しい怒りは、埋み火の熾のようなものに変わり、その上をあきらめという灰がおおっていくのを感じていた。
232ページ カッサにバルサが伝える言葉
「槍を使うのは、いざというときだけ、か。・・・それが、幸せなことなのかもしれないと、考えたことはあるかい?」
カッサは、眉をひそめた。
280ページ カグロが思うジグロの人柄について
ユグロが華々しく生還したとき、カグロは胸をえぐられるような思いで、ジグロを思った。本気の勝負で、ユグロに負けるジグロではない。それが、わかっていたからこそ、弟に打たれてやったジグロの最期が、あわれだったのだ。
だから、いくら不名誉な大罪人とはいえ、実の兄を討って、英雄として王都で活躍しはじめたユグロの気持ちが、カグロにはわからなかった。もし、立場が逆で、ジグロが追っ手になって、ユグロを討ったのなら、ジグロは一生人前には出なかっただろう。ひっそりと、弟を弔いながら、この ( 郷 さと )で暮らしただろう・・・。
368ページ 終章 闇の彼方
山の底で、ふしぎな歌をうたった牧童たちは、男たちに沈黙を誓わせ、男たちもまた、心から、それを誓った。——たった今見たことを・・・感じたことを・・・すべて伝えられる言葉などない、と、悟っていたからだ。無理に語れば、それは、微妙にゆがんでいくだろう。それよりは、沈黙を守ることで、人びとに、この世には言葉で語れぬ、ふしぎな闇があることを信じさせたほうがいい。
上橋菜穂子さんが、文庫版あとがき「闇を抜けた、そのさきへ」の中で
バルサとなって闇の中を辿る間に、絶えず心に浮かんできたのはジグロの面影で、ああ、やはり、この物語は、バルサが、養父であるジグロとの思い出にひとつの決着をつけるためにあるのだな、と感じたのでした。
と書かれています。
ジグロとバルサの心の深い深いところを、彼ら自身もきっと解ってはいない闇を、そして、登場人物の心の機微を、とても丁寧に描かれているので、もう、圧倒されてしまいました。
何かを伝えようと、言葉を重ねれば、重ねるほどに、本当の所が少しずつ、ずれていく思いを経験した事が、心の中に浮かんできます。
今を生きている私たちも、自分でも気づかぬ闇を心に抱いて生きているのではないかと。
それは、誰のせいでもなく、誰かに無くしてもらえるものでもなく、自分自身でしか解決できない、消すことができないものなのだとつくづく思いました。
自分自身で、気づき、認めることが大切なのではないでしょうか。
そこから、新しい何かが始まるのでは・・・。
Nahoko・Uehashi
上橋菜穂子さんの本の心に残るページ 2
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上橋菜穂子さんの本の心に残るページ 4
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