上橋菜穂子さんの本の心に残るページ 5「虚空の旅人」

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虚空の旅人 を読んで


風が強い。

で始まる「虚空の旅人」

読み始めた時から少し違和感が、今までの「守り人」のタッチとは、文章のリズムというか、何かが少し、違う気がして‥‥‥

サンガル王国の成り立ちや構成の説明、ラッシャローという家船で生活する民の様子の細かな表現によって物語の深さが増しているように感じました。


上橋菜穂子さんが、文庫本あとがき「全十巻への舵を切った物語」の中で


「精霊の守り人」を書いていたとき、私はすっかりバルサの気分になっていたもので、たったひとり冷たい宮へ戻って行かねばならないチャグムがかわいそうでなりませんでした。物語を書き終わる頃には、すっかり、このやんちゃで真直ぐなちびすけが好きになっていたからです。
暗く肌寒い宮の奥から、明るく強い陽射しのもとへチャグムを出してあげたくて、彼がサンガルを旅する物語を思いついたのですが、チャグムという少年はどうも強い推進力を持っているらしく、物語はみるみるうちにサンガルを突き抜けて、その遥か南にあるタルッシュ帝国にまで広がってしまったのでした。これには、かなり唖然としました。


と書かれています。


私の心に残ったページを紹介していきます。

この物語は、チャグムとシュガの会話が多く思い出されます。

皇太子と相談役の主従関係

59ページ チャグムが、シュガに確かめるところ。 
「なるほど。‥‥‥むずかしいな。お前の言い方を借りるなら、わが新ヨゴ皇家は、神聖なる家柄だ。血の匂いをさせてはならぬ。清らかで、おだやかでなければならぬ。それでいて、相手を威嚇するということは、美しい鞘の中の、切れる刃を感じさせろということか」


191ページ チャグムが、シュガに頼むところ。 
「シュガ。ひとつだけ、約束してほしいことがある。これからも、おまえがなにかの陰謀に気づいた時、わたしを守るためにその真相を隠すようなことは決してせぬと約束してくれ。‥‥‥陰謀の存在を知りながら、だれかを見殺しにするようなことを、決してわたしにさせるな」


248ページ カリーナ姫が、チャグムに感じたところ
すこし照れたような顔でほほえんだチャグム皇太子を見て、カリーナは、やわらかい笑みを浮かべた。威厳がある君主は掃いて捨てるほどいる。‥‥‥けれど、こんなふうに、わずかなふれあいだけで人をひきつける者はなかなかいない。


359ページ シュガが、チャグムに答えるところ
「わたしは、殿下に誓いましたから。—— 陰謀を知りながら、誰かを見殺しにするようなことは、決して、させぬと」


378ページ 丘に立ち、チャグムが思うところ
しずかにひろがる、この鉄色の海のむこうから、大きな嵐がやってこようとしている。南の大陸は、もはや、お話の中の遠い国々ではなかった。これから、どんな波が襲いかかってくるのだろう。自分は、その波に、どうむかい
あうのだろう。——— 波にもまれながら、心が求める輝きを、ずっと追っていけるだろうか‥‥‥。
口笛のような鳴き声が響き、ハヤブサが、海と空のあいだを滑るように飛んで行った。


379ページ チャグムが、シュガに伝えるところ
「許せよ、シュガ。この危うさゆえに、わたしはいつか、そなたをも破滅へとひきずってしまうかもしれない。——— そうなりそうだと感じたら、いつでも手を離せ。わたしは、決して恨みはしない。そんなときがきたら、むしろ、そなたには生きのびて、わたしとは別の方法で国をよくしていってもらいたい」


上橋菜穂子さんが、文庫版あとがき「全十巻への舵を切った物語」の中で

もともとわたしは、「多音声の物語」を書いてみたい、と思っていました。社会的立場も文化的背景も異なる多くの存在がひしめく世界を描いてみたかったのです。多くの異なる民族、異なる立場にある人々が、それぞれの世界観や価値観を持って暮す世界 ——— そういうものを、生々しく具現化できたらと願っていました。
その欲求を思いっきりぶち込んで描いたのが、この「虚空の旅人」です。

と書かれています。


また、最後の解説で、
小谷真里さん ( ファンタジー評論家 )は、

女たちが世界を平和に保つために独自の価値観で政治的な行動を取るいっぽう、ひとたび権力的支配という罠につかまったが最後、とてつもない矛盾に引きずり込まれてしまう。

本書は、女の住う世界の魅力と魔力を深い視点から描きながら、実はその視点こそ最初からゆるぎのない姿勢で持っていたことを窺わせる、なんとも凄みのある作品なのである。

と書かれています。


小谷真里さんの解説を読ませていただき、
表にはでてこない人物の性格についての思い入れが文字のそこここに隠れているのだということを思い知りました。だからこそ、この物語からかもし出される目には見えないものが心の奥へ奥へとしみていき、この物語から離れられなくなってしまうのだと、つくづく思いました。


「シュガ」のような人がそばにいて、
悩んでいる私の相談に乗ってくれたらと、いつも思っています。


Nahoko・Uehashi
 上橋菜穂子さんの本の心に残るページ 4 「夢の守り人」はこちらから

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