上橋菜穂子さんの本の心に残るページ 2「精霊の守り人」

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精霊の守り人 を読んで

上橋菜穂子さんとは、

「他者の気持ちに寄り添って歩み、読み終えた時は、読み始めた時と少し違う場所に立っている、そう言う物語を書きたい。」

と言う朝日新聞の記事と出会い、「精霊の守り人」というタイトルに引かれてこの本から読み始めました。

詳しいことは、
Nahoko・Uehashi
上橋菜穂子さんの本との出会い 1「 国際アンデルセン賞 」 を読んでください。




上橋菜穂子さんは、「精霊の守り人」の、文庫版あとがきで、

本書「精霊の守り人」を書きはじめたとき、バルサとチャグムの物語を10年以上にわたって書き継いでいくことになろうとは、夢にも思っていませんでした。
けれど、この物語を書くうちに、私の中で、ふたりが生き生きと息づきはじめ、この一冊だけで筆を置く事を許してくれず、とうとう、彼女らの人生を十巻にわたって書き継いでいくことになったのです。

と書かれています。


文庫本の初めのページに書かれている、目次、次に絵地図、そして、人物紹介
これらは、私にとっての物語を読むときの、羅針盤になりました。
特に、地名が出てくると、いつも絵地図のページに戻り、どの辺りなのかを確認して本編に戻ると言うことを繰り返しながら、読んで行くと、頭の中で、登場人物のいる場所が描きやすかったです。

私の印象に残ったページを紹介していきます。


バルサが鳥影橋を渡っていたとき、皇族の行列が、・・・・

ではじまる「精霊の守り人」



14ページ バルサの紹介
すりきれた旅衣をまとい、頭陀袋を短めの手槍 ( 短槍 )にひっかけてかついだバルサは、しかし、眉ひとつ動かさずに、ゆらゆら揺れる鳥影橋を渡りはじめた。
バルサは今年三十。さして大柄ではないが、筋肉のひきしまった柔軟な柔軟な身体つきをしている。長い脂っけのない黒髪をうなじでたばね、化粧ひとつしていない顔は日に焼けて、すでにこじわが見える。
しかし、バルサをひと目見た人は、まず、その目に引きつけられるだろう。その黒い瞳には驚くほど強い精気があった。がっしりとした顎とその目を見れば、バルサが容易に手玉にはとれぬ女であることがわかるはずだ。
—— そして、武術の心得のある者が見れば、その手強さにも気づくだろう。



45ページ 星読博士のシュガの紹介
昇ったばかりの朝日のもとで、二ノ宮の館は無残な姿をさらしていた。いやな臭いをふりまきながら、まだぶすぶすと煙をあげているその焼け跡を、じっとながめているひとつの人影があった。
彼は、まるで、騒々しく走りまわっている人びととは別の空間に、ぽつんとひとり立っているように見えた。深い紺色の一重の衣をまとっている。彫りの深いととのった顔に、筆で描いたかのような形の良い眉。その眉の下には恐ろしいほどにきつい光をたたえた、うすい鳶色の瞳があった。・・・・この若者こそ、「星ノ宮一の英才」とささやかれている、星読博士のシュガであった。



122ページ 薬草師のタンダの紹介
寝床の脇で、腕組みをして、うつらうつらしている男の顔が、あわい午後の光に浮かび上がっている。
「・・・タンダ?」
バルサが、かすれた声で呟くと、男が、はっと目を覚ました。黒に近い褐色の肌に、ぼさぼさの茶色い髪。
目尻のしわと、やわらかい光をたたえた目。いかにも人がよさそうな、二十七、八の男だった。



142ページ 呪術師トロガイの紹介
青霧山脈の山奥に小さな老婆がたたずんでいた。麻の巻頭位を縄でむすんだだけの粗末な衣をまとい、濃い茶色のしわだらけの顔に、ぼうぼうと白髪がかぶさっている。ぐいっとひろがったはな、ぎゅっと閉じられた口。細く切れめを入れたような目。その目が、黒く濡れ濡れと光っている。



155ページ 呪術師トロガイがシュガにあてた手紙
——星読みよ。
天ばかり見て、まつりごとに、せいだすうちに、おのれの立つところを、忘れたか。
百年にいちどの、だいじのときに、わしを追いまわすひまが会ったら、二ノ宮の、みうちに宿ったたまごを、しっかりまもれ。
( 中略 )
星読みよ。くちおしいが、われらヤクーも、時のかなたに、大事なことを、置き忘れてしまった。いつのまにか、ラルンガをころす術を忘れさってしまった。おまえのところに、たまご食いのころしかたが、つたえられているなら、いそいで、天を見るのをやめて、地に目をもどし、たまご食いをころしにこい。
                                トロガイより——



182ページ トロガイ師がバルサに話した言葉
「なんと、なんと」
ゆくっり頭をふって老呪術師は、バルサをふりかえった。
「こういうのが、運命ってやつなんだろうね。この世の糸ってのは、奇妙なもんさね。—— あんた、ニノ宮に頼まれたのかい?」
バルサはうなずいた。この老婆の頭の回転は、とんでもなくはやいのだ。いちいち驚いてはいられない。



210ページ 娘バルサがジグロに武術を教えてくれるように頼んだ時のようすをチャグムにつたえている。
「はじめは、ジグロは首を縦に振らなかった。
( 中略 )
けれど、けっきょく、ジグロは折れた。彼が娘に武術を教える気になった理由は、ふたつ。
ひとつは、自分が追手に殺されたとしても、娘がひとりで逃げて、生きていかれるように。
もうひとつは、娘に武術の才能があることに気づいたからさ」




それから、246ページの
バルサが、ジグロが言ってくれた言葉をチャグムに語っている

「いいかげんに、人生を勘定するのは、やめようぜ、って言われたよ。
不幸がいくら、幸福がいくらあった。
あのとき、どえらい借金をおれにしちまった。‥‥‥‥
そんなふうに考えるのはやめようぜ。
金勘定するように、過ぎてきた日々を勘定したらむなしいだけだ。
おれは、おまえとこうして暮らしているのが、きらいじゃない。
それだけなんだ、ってね」



342ページ 終章 雨の中で
なぜ、と問うてもわからないなにかが、突然‥‥‥‥



この続きは、本でぜひ読んでください。



文庫本あとがきにおいて、上橋菜穂子さんが、子どもの頃出会った
数々の物語が書かれてあり
その中に、ローズマリ・サトクリフの
イギリスを舞台とする一連の歴史小説

「ともしびをかかげて」「運命の騎士」がありました。
その後、
「第九軍団のワシ」「銀の枝」と
図書館でかりて、2回、3回と読み返しました。

本当に面白かったです。



このブログを書くために、もう一度「精霊の守り人」を読み返しました。


私事なのですが、この5年の間に本当に色々な出来事が起こり、私の人生が、がらりと変わりました。


どうして、こんな人生になってしまったのか、どうして私が、人に対して意地悪をして生きてきたつもりも無いし、
嘘をついて生きてきたわけでも無いのに、それなりに、真面目に生きてきたのに、どうして、この私がと‥‥‥‥

そんな心の思いが、「精霊の守り人」の、バルサの言葉に、ジグロの言葉によって、溶けていきました。


上橋菜穂子さんが語られているように、
「読み終えた時は、読み始めた時と、少し違う場所に立っている」

今、そう思えます。


この物語「精霊の守り人」は、女用心棒の話であり、その戦いのシーンの描写にも物凄い迫力がある。血なまぐさい描写もたくさんある。
しかし、
それでいて、登場人物の、生きていくための心のあり方、人としての思いのあり方の描写は、
今を生きている私たちにとって、心の支えになる、言葉であふれていると思います。




Nahoko・Uehashi
 上橋菜穂子さんの本の心に残るページ 1 「 国際アンデルセン賞 」 はこちらから

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