上橋菜穂子さんの本の心に残るページ 6「神の守り人 上 」

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神の守り人( 上 来訪編 ) を読んで


朝日新聞の記事で
上橋菜穂子さんが言われていた言葉

「他者の気持ちに寄り添って歩み、読み終えた時は、読み始めた時と少し違う場所に立っている
そういう物語を書きたい」 と

本当に上橋菜穂子さんの本を読み終えると少し違う場所に気持ちが立っている、
そうか、そう考えて生きていけばいいんだと思わせてくれます。


また、
児玉 清さんが
「神の守り人 ( 下 帰還編 ) 」の解説の最後に

「凄く面白い、それだけですんでしまう物語もあるが、その上にいい、がつく上橋菜穂子ワールドをぜひ心ゆくまで堪能していただきたい。きっとあなたの人生のおおいなる指針となるはずだ。」

と書かれています。


月が、大地に霜のような光を落としている。

で始まる「神の守り人 ( 上 来訪編 ) 」


この物語は、バルサが、その過酷な人生の中で培ってきた経験や知識を頼りに、ひとりの少女
「アスラ」を救おうとする中で、幼い頃、ジグロと旅をしていた時のジグロの色々な思いに気づき、
また、バルサ自身のこれからの生きる道を探る物語です。

上橋菜穂子さんは、
「神の守り人 ( 下 帰還編 ) 」あとがき「プロフェッショナルの魅力」の中で

私は、バルサが心底好きです。
自分が生みだした人間が好きだと、後書きで告白するというのも妙なものですが、
久しぶりに本書を読み返して感じたのは、自分が心から惚れられるバルサのような人が生まれてきたからこそ、「守り人シリーズ」十年以上も書き継いでいけたのだろうな、ということだったのです。
バルサの強さ、バルサの弱さ‥‥‥細部に渡って好きなところはあるのですが、私にとっての彼女の魅力の核は、プロフェッショナルである、というところにあります。

と、書かれています。


私がこの、「神の守り人 ( 上 来訪編 ) 」を読んだ時に感じた、バルサのプロフェッショナルなところを紹介していきます。

ちょっとたくさんありますが、ぜひ最後まで読んでください。


74ページ タンダがバルサのことを思い 
タンダは、怪我をしたり病をえたりすると、いたわってもらい気分になるのだが、バルサは、そういう甘えを自分にゆるさない。ゆるさないというより、身にしみついてしまっているのだろう。弱ったときにも、つけいられることのないように、心がいつも、どこかで張りつめている。——ジグロは、ひとりで生きられる獣をつくりあげたのだ‥‥‥。


96ページ タンダがバルサを説得しているところ
‥‥‥これは一時の用心棒稼業じゃない。へたをすると、一生にかかわることだぞ。情に流されて、自分を捨てるな」 バルサは右手で顎を擦った。そして、うなずいた。 「そうだね。大切に貯めてきたもので、ひたひたに満ちている器を、ひっくり返して空にする気がないなら、やめたほうがいい」
バルサの目は、怒りとも哀しみともつかぬ光をひめて、異様に光って見えた。


153ページ バルサがアスラと一緒に逃げているところ
川のそばは冷気が流れている。眠るときは、この冷気がのぼってこないところを探さねばならない。
道のない山に分け入るときは、印をつけなければ、おなじところへは戻れない。しかし、今は、印をつけたら追ってこいというものだ。こういうときは、ゆっくりと、手がかりになる木の形、岩の形をおぼえながら歩く。
追われている緊張感が、絶えず、いそげ、いそげ、と身をせかすが、決してあせって動いてはいけない。あせっていると必要なことをし忘れ、大事なことを見落とすからだ。
バルサが水を汲み、痕跡を残していないか点検し、ようやく身体を休めたのは、もう夜がしらじらと開けはじめた頃だった。


285ページ [ よろず承 ] の看板を出しているタチヤさんが、ナカに、バルサについて語るところ
「隊商の護衛は、酒場の用心棒とは違うのです。ジャノンは銅貨12枚の価値だといった意味は、そこあります。バルサは銅貨30枚。私がそういったのに、ジャノンは、バルサを女だというだけで侮った。
ジャノンは剣の腕はたしかだが、手を出してはいけない相手を見抜けないようでは、まだまだ。隊商の護衛はしないほうがいいと、私は判断しました。だから、止めなかった。いま指を折られたほうが、後で首をおられるよりずっといい。
バルサは、いったん相手をするとなったら、格下の相手でも容赦なく倒し、たおれていても、油断をしなかったでしょう? その上、しばらくは剣をにぎれないようにすることで、恨みをいだいても襲えないようにしたのですよ。指が治る頃には、バルサさんはここにはいない。ふたたび会う頃には、頭も冷えているでしょうからね。
ナカさん、残酷なのではなく、これこそが、命を守る仕事をするときに絶対必要な、心構えなのです。
・・・・だから、わたしはバルサを一流だといったのですよ」


285ページ タチヤさんがバルサに言った言葉
「むかし、ジグロさんの技を見たことがあるが、バルサさん、その域に達したようだね。年をとっても衰えぬ技というのがあると、ジグロさんがいっていたが、わたしは首をかしげたものだ。——だが、さっきのあなたの動きを見て、すこし信じはじめたよ」
バルサは、ほほえんだ。
「ジグロは、女の身体でも強くなれる技をわたしに仕込んでくれた。それは、結局、筋肉に頼らない技ですからね。・・・・いつまで、わたしがこの仕事をできるか、長いつきあいができるといいですね」


294ページ バルサがアスラにかける言葉
「わたしの養父が、いっていた。——絶望するしかない窮地に追い込まれても、目の前が暗くなって、魂が身体を離れるその瞬間まで、あきらめるな。
力を尽くしても報われないことはあるが、あきらめてしまえば、絶対に助からないのだからってね」



バルサのプロフェッショナルなところを、感じていただけましたか?

児玉 清さんが
「神の守り人 ( 下 帰還編 ) 」の解説の中で
「作者の物語を紡ぐ技と力と心はますます磨きがかかり、腕に縒りをかけた話の行方はどこに辿りつくのか、まったく予断を許さぬ展開はあなたの心を金縛り状態にするにちがいない。
そしてハラハラドキドキの連続の中で、いつしか自分の心の中に温かい灯がともり、そのキラリと光るものが次第しだいに温かみと輝きを増し、読み終えるときには、その光が眩しいばかりに明るくなり、人間の素晴らしさと愛おしさに心をふるわせることとなる。これぞ上橋菜穂子ワールドなのだ。」

と、また、

ヒロイン・バルサは、健気で素朴で純情で心やさしい、しかも一旦短槍を手にして戦えば、獅子奮迅の大活躍、まさに鬼神岩をも砕くといった凄い力を秘めている。・・・・・・巻を重ねるごとにバルサの底知れぬ魅力にどっぷりと浸り、その人間としての心の在り方にふるえるほどの共感を抱くこととなったのだが、さらに今回のバルサの活躍は、あなたの心に一際輝く印象を刻印することとなる。もうすでにおわかりのように、上橋菜穂子さんは、無から凄い素晴らしい物語を紡ぎ出すことができる達人であり、剛の者なのだ。

と書かれています。



児玉 清さまの解説を読ませて頂いて、私の心の中の「守り人シリーズ」で感じていた思いを具体的な言葉に変えることができました。


上橋菜穂子さまの「守り人シリーズ」は、
何度読み返しても、その度に、人生の進むべき道を照らしてくれる言葉に出会うことができる物語だと思います。




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